3. 人って忘れる生き物だな

両親が一週間の旅行から帰ってきた。

 

母と顔を合わせて「ただいま」の次に言われた言葉は、

「旅行楽しかったよ〜」でも、「ちゃんと一週間過ごせた〜?」でもなく、

「何そのメイク、マンションの人とすれ違ったら絶対ギョッとされそう、タトゥー入れてるオネーサンみたい」

という散々なものであった。

 

確かに今日はアイライナーをグレージュではなくブラックに変えた。

使うアイシャドウを3色にした。

だが私にしてみればたったそれだけであって、

しかもこのメイクは普段会社に行く時にもしているものであって、

つまり、このメイクをしている私を母は何度も見ていて、

それでも今まで一度もそんなことを言ってきたことはなかったのである。

 

 

「久しぶりに見た娘に対して出てくる一言がそれなのか〜〜

 最近あんま喧嘩していなかったから忘れてたけど、

 この人はこういう人だった〜〜〜」

と思い出し、もはや落ち込みもしなかった。

ただ一つ、「人って忘れる生き物だな」という悲しい気づきが心に残った。

 

旅行に行く前日、両親が本当に久しぶりに

(どれくらい久しぶりかと言うと恐らく10年以上ぶりくらい)、

口論をしていた。

何でも「だって無理だし」で片づけたり、他人に対してお人好しな母に対して、

苛立ちを募らせた父が少々母に当たったのである。

具体的に父の発言を書くことはしないが、

父の言葉は恐らく、「家族だからこれくらいの苛立ちをぶつけても許される」

という思いや、くだらない意地を張っていることから来たものだった。

 

案の定、母は私に同情を求め、

「あんな発言して良いわけないよね、人としてあり得ない」

と言って来たのだが、私からしてみれば、「いやおめーもな」案件でしかなかった。

そのため、母には

「家族だから何言ってもいいわけじゃないってやっと分かったでしょ」

と返し、父には

「あの性格はもうどうしようもないので、明日から旅行なんだし、勘弁してあげて」

と伝え、私が会社から帰宅した頃にはすっかりいつもの「母に対して少々甘めな父」に戻っていた。

 

母は一週間の旅行のうちにそんなことはつゆ忘れたのか、本日の冒頭の発言である。

去年大きな喧嘩をしてから、母に対しては諦めしか抱いていないのだが、

「人はわが身に起きたことですらすぐ忘れる」というのを再び実感してしまった。

 

 

 

ちなみに両親がいなかったこの一週間、

大変だったかと言われれば、全くそうではなかった。

 

早起きして朝食を準備し、洗濯機を回し、洗い物をして、身支度をし、

家を出る直前に回した洗濯機から出した洗濯物を干す。

帰って来たら夕食を準備すると同時に洗濯物を取り込み、洗い物をし、

洗濯物にアイロンをかけ、お風呂に入る。

 

一人暮らしの人からしてみれば当たり前なわけだが、

生まれてから親元を離れたことがほぼないばかりか、

ろくに家事をしたことのない私にとっても全く大変ではなく、

やることがある分てきぱきと動くおかげで普段より一日を有効活用でき、

むしろ楽しかったのであった。

 

「早く家を出よう」という決心が、一層固まったこの一週間であった。